この事例の依頼主
年齢・性別 非公開
相談前の状況
ご相談者様は、当時在職中の会社を退職したいと考えていましたが、退職の意向を上司に伝えたところ、やめさせないからな等と言われ、在職を強いられていました。そこで、やむを得ず、退職代行業者を利用して、退職の意思表示を行いました。ご相談者様は、意思表示直後、退職代行業者の担当者から、今後LINE等はブロックし、電話も着信拒否にして大丈夫だといわれ、一切対応しないよう指示を受けました。ご相談者様はこの退職代行業者からの連絡に安心し、言われたとおり会社側との連絡を絶ち、無視していました。ところが、この退職代行業者からの指示に従っている間に、会社側から、引継ぎ等ができなかったために損害が生じたとして、代理人弁護士を通じて損害賠償を求める通知がきていました。そして、ご相談者様と連絡がとれなかったことから、会社側は、ご相談者様に対する訴訟を提起しました。訴訟が提起されたことを知ったご相談者様から依頼を受け、裁判の対応にあたることとなりました。
解決への流れ
裁判では、会社側が請求している損害との因果関係を争い、最終的にはほとんどの部分の支払いを免れる形で会社側と和解が成立しました。もっとも、裁判に要した費用等も合わせると、退職の意思表示を行う段階から弁護士に依頼した方が、遥かに穏便かつ安く解決できたであろう事例でした。
本事案では、退職代行業者(少なくとも零細な事業者ではありませんでした)のずさんな指示によって、会社側に損害が生じてしまい、結果として退職者もその一部を負担することとなりました。民法上は退職の意思表示後2週間で退職可能ですが、同時に、退職者においては、必要最低限の引継ぎ等を行う義務もあります。本件では、退職代行業者が一切の連絡をしないよう指示したために、必要最低限の引継ぎさえされず、結果として因果関係を否定しきれない損害もありました。そもそも、弁護士法72条は、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。」と定めています。いわゆる非弁行為を禁止するものであり、これに違反することは犯罪にもなり得ます。この条文をかなり緩めに解釈したとしても、退職代行業者が、退職者に代わり、退職の意思を伝達した後に、会社からの問い合わせや責任追及等への対応を行うことはできないものといえます。しかし、本件において、退職代行業者の担当者は、自らは交渉することができないにもかかわらず、他方で、ご依頼者様に会社との連絡を断つよう指示していました。これは、会社と退職者との連絡を阻害する行為でもあり、非常に悪質なものといえます。このような事情があったことから、退職代行業者への訴訟告知や求償等も検討しましたが、費用面やご依頼者様の意向もあり、退職代行業者への責任追及は行わないこととなりました。このように、(確かに費用面のメリットはありますが、)安易に退職代行業者を利用すると、結果として利用者が損害賠償請求を受け、弁護士に依頼した場合よりもかえって損をするような場合もあります。弁護士であれば、相手方との交渉が可能です。また、事案に応じた適切な助言や、会社側からの責任追及があった場合にも対応できます。本事例が、退職をする際の一つのご参考となれば幸いです。